2019.03.15
【農業女子の知恵袋 第16回】
by農業女子プロジェクト事務局
日々の農業と向き合う農業女子が、毎日の生活や仕事の中から編み出したアイデアや工夫などを紹介する「農業女子の知恵袋」。今回は、青森県弘前市の石岡紫織さんからの寄稿です。
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りんごの一大産地・青森県弘前市。
当、石岡りんご園の春は憂鬱な気分で始まります。
園地の雪解けと共に見えてくるのがハタネズミの食害です。
園地では100cmを越える積雪がありますが、徐々に雪が溶けてくるとネズミの活動が活発になり樹をかじります。樹皮をかじり取られた樹はやがて枯れてしまいます。小さな苗木を守るため、肥料袋やプラスチック製のガードを利用しますが、最近のネズミには効かないようです。
「昔はモホがいたからなぁ」
以前、年配の生産者の方が口にしていました。
モホとはフクロウのことです。フクロウの主食は小動物で、畑にいるネズミを捕食してくれるのでりんご農家とは共生関係でした。
青森県のりんご栽培は140年以上続いていますが、ワイ化樹が導入されるまでは古いりんごの樹を大事に栽培していました。長年実を付けた大樹は中から空洞化していきます。その洞にフクロウが住み着くのが津軽のりんご園の風景でした。
大きく古い樹が少なくなった今、住処を失ったフクロウが減り、その結果ネズミが増えたのではないだろうか。
「フクロウにもう一度りんご園に戻ってきてもらおう」
そう考えた生産者が集まり、2014年に弘前大学の協力を受け発足したのが「下湯口ふくろうの会」です。
フクロウの好む樹が減ってしまったりんご園に、手作りの巣箱を設置する活動が始まりました。
弘前大学農学生命科学研究科・東信行教授と岩手大学大学院連合農学研究科・ムラノ千恵博士学生の研究グループの協力を得て作成した巣箱は、フクロウが好む大きさや素材を選びながら毎年改良を加えられ、今では周辺のりんご園に60個以上設置されています。
巣箱作成には地元小学生も参加し、春には園地で巣箱観察のワークショップを行います。2018年の春には実際に営巣するフクロウが確認できました。
前述のムラノさんの調査研究によると、フクロウのいる園地ではネズミの数が6割も減るそうです。卵がかえる4月ごろからひなが巣立つまでの約1カ月間に親鳥は300匹のネズミを捕獲するのです。
餌が豊富なりんご園で子育てをし、巣立った子ども達は生活の場を森へと移します。
りんごの樹ばかりではなく、森や林が残っている方がフクロウが住みやすい環境だといいます。
私の住む集落は、稲作や畑作に適さない山林を切り開き、りんご栽培を始めた地域です。集落の年配の方の言うように、昔はたくさんのフクロウがりんご園で暮らしていたようです。
りんごを栽培・収穫するための園地だと思っていましたが、そこはフクロウやネズミなど他の生物の大事な生活の場でもある事に気付きました。
生産者にとってネズミはやっかい者ですが、そのネズミを捕食するフクロウはまさに救世主です。
先日の園地での剪定作業中、フクロウの「ホーホー」と鳴く声が聞こえてきました。
フクロウの事を知った今は、その声がとても頼もしいものに思えます。
雪が消えた園地ではネズミが駆け回ります。フクロウの出番はもうすぐです。
フクロウの力を借りて今年もおいしいりんごを作ろうと思います。
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